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広島高等裁判所 平成3年(ネ)139号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

ベルギーダイヤモンド株式会社

右代表者代表取締役

小城剛

小城剛

右両名訴訟代理人弁護士

伊藤文夫

被控訴人(附帯控訴人)

石川幸恵

石原契子

植田悦子

岡素子

勝侑子

川上澄枝

後藤春子

新宅美津枝

亡末岡弘男承継人

末岡ヒサコ

末岡努

高田清子

高原久子

中沢和恵

早崎悟

本岡マツエ

森脇秀子

山畑妙子

渡里三重

右一八名訴訟代理人弁護士

石口俊一

生田博通

小田清和

胡田敢

大迫唯志

坂本宏一

津村健太郎

寺垣玲

中丸正三

二国則昭

馬淵顕

水中誠三

山田延廣

我妻正規

被控訴人

南寛信

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  本件附帯控訴に基づき、原判決中被控訴人(附帯控訴人)らに関する部分を次のとおり変更する。

控訴人(附帯被控訴人)らは、各自、被控訴人(附帯控訴人)らに対し、別紙認容額表の各被控訴人(附帯控訴人)に対応する同表合計欄記載の各金員及び右各金員に対する控訴人(附帯被控訴人)ベルギーダイヤモンド株式会社については昭和六〇年五月一一日から、控訴人(附帯被控訴人)小城剛については同年五月一二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人(附帯控訴人)らのその余の請求を棄却する。

三  控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし、第一審訴訟費用中控訴人(附帯被控訴人)らと被控訴人(附帯控訴人)らとの間に生じた費用及び附帯控訴費用は、これを五分し、その四を控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(控訴事件について)

一  控訴人(附帯被控訴人)ら

1 原判決中控訴人(附帯被控訴人)ら敗訴部分を取り消す。

2 被控訴人(附帯控訴人)ら及び被控訴人南寛信の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)ら及び被控訴人南寛信の負担とする。

二  被控訴人(附帯控訴人)ら

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)らの負担とする。

(附帯控訴事件について)

一  被控訴人(附帯控訴人)ら

1 原判決中被控訴人(附帯控訴人)らに関する部分を次のとおり変更する。

控訴人(附帯被控訴人)らは、各自、被控訴人(附帯控訴人)らに対し、原判決添付損害一覧表の被控訴人(附帯控訴人)らに対応する同表合計欄記載の各金員(但し、末岡ヒサコ及び末岡努については、いずれも末岡弘男の五四万四〇〇〇円の二分の一である二七万二〇〇〇円)及び右各金員に対する控訴人(附帯被控訴人)ベルギーダイヤモンド株式会社については昭和六〇年五月一一日から、控訴人(附帯被控訴人)小城剛については同年五月一二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)らの負担とする。

二  控訴人(附帯被控訴人)ら

1 本件附帯控訴を棄却する。

2 附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決五枚目表六行目の次に改行して「なお、末岡弘男は、平成元年四月五日死亡し、その相続人は妻である被控訴人(附帯控訴人)末岡ヒサコ及び長男である同末岡努である。」を加え、一一行目の「販売委託契約」を「販売媒介委託契約」と改める。

二  同七枚目表四行目の「三パーセント」を「二パーセント」と改める。

三  同一八枚目表六行目の「販売委託契約書」を「販売媒介委託契約書」と改める。

四  同一八枚目裏七行目から九行目までを次のとおり改める。

「6 よって、被控訴人(附帯控訴人)ら及び被控訴人南寛信は控訴人(附帯被控訴人)らに対し、控訴人(附帯被控訴人)会社につき民法七〇九条、控訴人(附帯被控訴人)小城につき民法七〇九条、商法二六六条ノ三に基づき、各自、原判決添付損害一覧表記載の被控訴人(附帯控訴人)ら及び被控訴人南寛信に対応する同表合計欄記載の各損害金(但し、末岡ヒサコ及び末岡努については、いずれも末岡弘男の損害金五四万四〇〇〇円の二分の一である二七万二〇〇〇円)及び右各金員に対する控訴人(附帯被控訴人)会社については不法行為日以後である昭和六〇年五月一一日から、控訴人(附帯被控訴人)小城については不法行為日以後であり、かつ、訴状送達の日の翌日である同年五月一二日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

五  同一九枚目表二行目の次に改行して「なお、末岡弘男の死亡及びその相続関係は認める。」を加える。

第三  証拠〈省略〉

理由

一当事者、本件組織の仕組み、控訴人(附帯被控訴人)会社における勧誘方法、控訴人(附帯被控訴人)会社が販売したダイヤモンドの価値については、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決二九枚目裏一行目から三八枚目裏七行目までと同一であるから、これを引用する。

1  原判決三〇枚目裏二行目の次に改行して「末岡弘男は、平成元年四月五日死亡し、その相続人は妻である被控訴人(附帯控訴人)末岡ヒサコ及び長男である末岡努であることは、当事者間に争いがない。」を加える。

2  同三〇枚目裏一〇行目の「第三六号証の一ないし五、」の次に「第五七ないし第五九号証(但し、被控訴人南寛信との関係では弁論の全趣旨により認める。)、」を加える。

3  同三二枚目裏一行目の「会員」を「ダイヤモンド購入者」と改める。

4  同三三枚目表一〇行目の「第二四号証の二〇、」を削除する。

5  同三三枚目裏二行目の「反する部分を除く。)、」の次に「第五七ないし第五九号証(ただし、後記認定に反する部分を除く。)、」を、三行目の「一五、」の次に「二〇、二三、」を、「三〇」の次に「(原本の存在とも)」を各加える。

6  同三六枚目裏九、一〇行目の括弧書部分を削除する。

7  同三七枚目表一〇行目の「認められる」の次に「甲第四九号証、第五〇号証(但し、被控訴人(附帯控訴人)ら主張のとおりの写真として)、」を加える。

8  同三七枚目裏二行目から四行目までを「ドの場合には、その処分価額は著しく低く、購入価額の約一割程度であることが認められる。」と改める。

9  同三八枚目裏六、七行目を「も、控訴人(附帯被控訴人)会社のダイヤモンドの販売価格の設定が一般の宝石小売店におけるそれと対比して高額であったと認めるに足りる証拠はない。」と改める。

二本件商法の違法性について

1  本件組織の違法性について

前認定によれば、本件組織は、次のとおりいうことができる。

本件組織は、ダイヤモンドの販売を拡張するため、顧客に対し、購入者には種々の特典の付与があること、右特典のなかにはビジネス会員となる資格が含まれており、ビジネス会員は、新たな顧客を勧誘し、ダイヤモンドを購入させ、また、ビジネス会員として本件組織に加入させること等によって、一定割合の顧客紹介手数料及び配下のビジネス会員指導育成料を得ることができることを説明して、ダイヤモンドの購入を勧誘し、右勧誘に応じてダイヤモンドを購入してビジネス会員となった者が、右経済的利益の獲得を実現するため、さらに、その知人、友人等を控訴人(附帯被控訴人)会社に紹介し、ダイヤモンドを購入させ、ビジネス会員とさせることにより、ダイヤモンドを購入してビジネス会員となる者を連鎖的に増殖させるものである。

したがって、本件組織は、純粋なダイヤモンド購入目的の顧客に対しダイヤモンドを販売をすることを主眼とするものではなく、右経済的利益の獲得目当ての顧客に対し、ビジネス会員の資格欲しさにダイヤモンドを購入させ、右経済的利益獲得に奔走させ、右経済的利益獲得活動により、ダイヤモンド購入を予定していなかった者をも新たにダイヤモンド購入に巻き込むことを狙いとしたものである。

本件組織は、連鎖的に増殖していくものであるから、すべての会員が経済的利益を獲得するためには、新規会員が無限に拡大することが必要であり、新規会員の無限拡大を組織存立の不可欠の前提としているが、現実には新規会員が無限に拡大することはありえないから、拡大能力のいかんを問わず早晩破綻する運命にある。

本件組織が破綻すると、それがいかなる段階であっても、ごく少数の上位者のみが経済的利益を獲得し、下位の圧倒的多数の者は、自己の出捐した金員の額すら回収できない結果に終わることが当然に予定されている。したがって、本件組織への加入そのものが射幸的、賭博的性格を帯びている。

しかし、本件全証拠によるも、本件組織の破綻の必然性、破綻によってもたらされる結果について開示したうえ、ダイヤモンドの購入、ビジネス会員の勧誘がなされた形跡は窺えず、むしろ、前認定によれば、その点が隠蔽されていることが認められる。

以上によれば、本件組織は、無限連鎖講の防止に関する法律二条の「無限連鎖講」には該当しないとしても、同法一条が無限連鎖講についていう「終局において破たんすべき性質のものであるのにかかわらず関係者の射幸心をあおり、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るもの」と本質において同視されるべきものといってよく、無限連鎖講について、これを開設し、運営することが法律で禁止され、刑罰の対象とされていることを考慮すると、本質を同じくする本件組織も、これを開設し、運営することは違法といわざるを得ない。

控訴人(附帯被控訴人)らは、ビジネス会員が、顧客紹介またはビジネス会員指導育成による経済的利益の獲得ができなかったとしても、購入代金相当のダイヤモンドが手元に残るから、ビジネス会員に損害を与えることはなく、本件組織は違法ということはできない旨主張するけれども、前認定のとおり、控訴人(附帯被控訴人)会社のダイヤモンドの販売価格の設定が一般の宝石小売店におけるそれと対比して高額でないとしても、その処分価額は約一割程度に過ぎないところ、ビジネス会員になる者は、純粋にダイヤモンド欲しさで購入したということはできず、程度の差はあれビジネス会員としての経済的利益を求めて、ビジネス会員の資格を得るためダイヤモンドを購入したものであるから、ダイヤモンドを購入のため四〇万円前後という一般人にとっては高額の出捐をさせられたこと自体が損害であり、右主張は損益相殺の問題に過ぎず、本件組織を適法視することはできない。前掲〈書証番号略〉によれば、被控訴人(附帯控訴人)川上澄枝及び被控訴人南寛信は、購入動機としてダイヤモンドそのものが欲しかった旨述べているが、右両名も、ビジネス会員として本件組織に加入していることを考慮すると、純粋にダイヤモンド欲しさのみで購入したと考えることはできない。

控訴人(附帯被控訴人)らは、また、本件組織は、ダイヤモンド購入者に新たな顧客獲得をなんら義務づけるものではなく、ダイヤモンド購入代金以外の金銭的負担を負わせるものではないから、必然的に連鎖的に拡大し破たんに至る組織とはいえないと主張する。しかし、本件組織においては、ダイヤモンド購入者は、なるほど契約上はダイヤモンド購入代金の支払以外に法的義務や金銭的負担は負わないが、そのダイヤモンドの購入自体が高価で必ずしも必要とはしない品物の購入という点で大きな金銭的負担であり、他方前認定の巧みな勧誘方法により新たな顧客獲得による右金銭的負担解消に向けての誘導がなされる結果、新たな顧客獲得を心理的に強制されることになるのであって、ここに本件組織が必然的に連鎖的に拡大し破たんに至る契機があるものということができる。

2  勧誘方法の違法について

前認定によれば、本件勧誘方法の特徴は次のようにいうことができる。

本件勧誘方法は、行き先も目的も知らせないまま顧客を控訴人(附帯被控訴人)会社に案内したうえ、同社の豪華な設備、巧みな演出等により、顧客を圧倒させる催眠的手法により、顧客の心理や欲望に巧みにつき、これを利用するものであり、また、ビジネス会員に、同人の金銭的利益追求のため、その知人、友人等自然で純粋な信頼関係で結ばれた者を利用させるものである。ダイヤモンドが利殖になるとか控訴人(附帯被控訴人)会社のビジネスは絶対に儲かるとかの射幸心をあおるような行為、言葉遣いをしないこと及び客に無理に勧めたり、誤解を招くような説明をしたりしないようにとの表向きの一応の教育がなされていたが、実際は、努力次第で、金儲けができるとか、本物のダイヤモンドが顧客紹介手数料等を得ることにより結果的には安くあるいはただで手に入れることができる旨の勧誘がなされており、右勧誘方法は一部会員の逸脱行為ということはできないのであって、控訴人(附帯被控訴人)会社もこれを容認していたものである。また、本件組織の破綻の必然性、破綻によってもたらされる結果について、開示されることなく隠蔽されていた。

したがって、右勧誘方法は、不公正、かつ、欺瞞的といわざるを得ず、違法というべきである。

3  したがって、本件商法は、その組織、勧誘方法に照らし、詐欺的商法として違法といわざるを得ない。

三控訴人(附帯被控訴人)らの責任について

1  控訴人(附帯被控訴人)会社は、前認定のとおり、本件商法を推進したことが明らかであるから、民法七〇九条の責任を免れない。

2  前掲〈書証番号略〉によれば、控訴人(附帯被控訴人)小城は、控訴人(附帯被控訴人)会社の代表取締役として同社の対外的業務に従事し、かつ、同社の営業の基本的重要事項につき、その概略を把握していたものと認められるから、本件商法を推進したものとして、民法七〇九条の責任を免れない。

四損害について

1  ダイヤモンド購入代金相当の損害

ダイヤモンド購入は、本件商法がもたらしたものであるから、ダイヤモンド購入代金は、本件不法行為による損害というべきである。

なお、前掲〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人南寛信は、クレジット・ローンを利用してダイヤモンドを購入したが、その後、右ダイヤモンドを返還し、クレジット・ローンの支払を免れていることが認められるから、同人にはダイヤモンド購入代金相当の損害はない。

2  M・M・C受講料相当の損害

M・M・Cの受講は、本件商法がもたらしたものであるから、M・M・C受講料は、本件不法行為による損害というべきである。

3  印紙代相当の損害

前掲〈書証番号略〉によれば、本件契約書作成のために印紙を必要としたことが認められるところ、これも本件商法がもたらしたものであるから、印紙代は、本件不法行為による損害というべきである。

4  慰謝料

本件商法の特質が、知人、友人を巻き込んだ違法な勧誘行為にあることからすれば、被控訴人(附帯控訴人)らが人間的信頼関係の破壊による精神的苦痛を受けたであろうことは推測に難くないが、被控訴人(附帯控訴人)らの勧誘行為は、前記のとおり心理的強制によるものとはいえ、契約上は義務づけられてはいない自らの意思に基づく、所詮は自らの利益獲得のための行為にほかならないと考えられることからすれば、右精神的苦痛は甘受するほかないものというべきである。したがって、慰謝料の請求は失当である。

5  損益相殺

被控訴人(附帯控訴人)らが購入したダイヤモンドをいずれもその手元に保有していることは弁論の全趣旨により明らかであり、その処分価額が購入金額の約一割程度であることは前認定のとおりであるから、各自の損害額からダイヤモンド購入金額の一割相当額を控除するのが相当である。

6  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮すれば、賠償を求め得る弁護士費用(被控訴人南寛信については原審分)は別紙認容額表弁護士費用欄記載の金額をもって相当と認める。

五以上によれば、被控訴人(附帯控訴人)ら及び被控訴人南寛信の本訴請求は、控訴人(附帯被控訴人)ら各自に対し、それぞれ別紙認容額表の各被控訴人(附帯控訴人)及び被控訴人南寛信に対応する合計欄記載の各金員及びこれらに対する控訴人(附帯被控訴人)会社については不法行為日以後である昭和六〇年五月一一日から、同小城については同趣旨の同年五月一二日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当である。

よって、本件控訴は理由がないから棄却し、本件附帯控訴は一部理由があるから原判決を右の限度で変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 露木靖郎 裁判官 小林正明 裁判官 渡邉了造)

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